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2025年度 (最新) 学院等開講科目 教養科目群 文系教養科目

世界を知る:ヨーロッパ 2

開講元
文系教養科目
担当教員
久保 佑馬
授業形態
講義
メディア利用科目
-
曜日・時限
(講義室)
クラス
2
科目コード
LAH.A501
単位数
100
開講時期
2025年度
開講クォーター
3Q
シラバス更新日
2025年3月19日
使用言語
日本語

シラバス

授業の目的(ねらい)、概要

15~16世紀の西洋ルネサンス美術史

 本講義では、近代ヨーロッパ文明の礎が築かれたといえる、15~16世紀のルネサンス文化史について、美術の歴史に焦点を当てながら考察します。レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロといった著名な芸術家たちや、彼らの主要作品について解説するのはもちろんですが、それだけでなく、当時の人々の宗教観や社会情勢が、ルネサンスの芸術作品にどう影響を与えたか、またそれがどのようにして時代の象徴となったのか、芸術と社会の相互影響について広く探求していきます。

 「ルネサンス Renaissance」とは、もともと「再生」を意味するフランス語です。西洋文明は、「古典古代」と呼ばれる古代ギリシャ・ローマの時代に最盛期を迎えたものの、西ローマ帝国の滅亡とともに衰退し、以後1,000年にわたって暗黒時代が続いてしまった。古典古代の学識や芸術を学びなおすことで、高度な西洋文明を「再生」できるのだと考えたのが、ルネサンス期の文化人たちでした。その歴史観が正しかったかどうかはともかく、彼らは古代文献を読み漁り、古代ローマ遺跡に通いながら古代の芸術に思いを馳せ、前の世代の芸術家たちが生み出せなかった迫真性あふれる表現を、後の世代の芸術家たちが次々と達成していくという華やかな文化状況が続きました。その到達点が、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロといった三大巨匠であり、ティツィアーノに代表される、絢爛豪華なヴェネツィア派の絵画世界であったのです。

 とはいえ、その歴史上まれにみる文化的な活況は、芸術家たちの努力によってのみ実現したわけではありませんでした。この時代の美術は、聖書に代わって信者に訴えかけるキリスト教主題、あるいは、王侯貴族など有力者たちの世俗権力を視覚化する意図で作られた肖像作品、宮殿建築などが主流でした。つまり芸術家は、興味の赴くまま、自発的に創作活動を始めることはまれで、教会や宮廷、都市の有力者たちを庇護者(パトロン)としながら、その創作力を発揮したのです。時にパトロンから細かな注文を受け、自身の芸術的着想を犠牲にするか、パトロンと関係を悪化させながら芸術上の信条を貫くか、究極の選択を迫られる事態も存在したでしょう。しかし総じてみれば、彼らはパトロンを頼ることで経済的安定を手に入れただけでなく、パトロンに近しい哲学者や文学者たちと交流を重ね、彼らの学識を作品制作で活用できる恩恵にも浴していました。ルネサンス美術は、芸術家とパトロン、あるいは教養豊かな文化人(人文主義者)たちが、互いに協力し合い築き上げた文化遺産であったともいえるのです。

 そうした作品の背後にある歴史的経緯までは、美術館で鑑賞経験を積み重ねた方でも、なかなか具体的に想像しがたいかもしれません。本講義では、時代を追って、あるいは地域別に系統立ててルネサンス美術史を概説しながら、そうした芸術家、パトロン、人文主義者たちの協力関係、作品に込められた宗教的意味、社会情勢からの影響など、芸術と社会の密接な相互関係について、皆様と一緒に考察していきます。講義を通じてルネサンス美術史、近世ヨーロッパ文化史への理解を深めていただき、今後の日本あるいは欧米での芸術鑑賞にお役立ていただければ幸いです。

到達目標

- 15~16世紀の西洋ルネサンス美術史について一通りの概説を学習したうえで、「ルネサンス」という概念が、どのような歴史的展開の中で成立したものなのか説明できるようになる

- 社会における「孤高の存在」という芸術家像が、近代以降に定着したものであることを学び、ルネサンス芸術家たちの作品制作は、パトロンや人文主義者たちとの協同作業によって進められていたことを、具体例に即して理解する

- 近世以前の芸術作品は、キリスト教主題、ギリシャ神話主題などが主流であったことを学び、当時の一般的な宗教観や社会情勢が、そうした宗教・神話主題の選択にどう影響を及ぼしていたか理解を深める。そして、その理解を今後の芸術鑑賞に役立てられるようにする

キーワード

西洋美術史、ルネサンス美術、イタリア・ルネサンス、アルプス以北のルネサンス(北方ルネサンス)、芸術と社会

学生が身につける力

  • 専門力
  • 教養力
  • コミュニケーション力
  • 展開力 (探究力又は設定力)
  • 展開力 (実践力又は解決力)
  • 皆様自身がそれぞれの分野で国際的に活躍することを見据え、国際水準の芸術教養を身に付けていただく機会にしていただければ幸いです。

授業の進め方

なるべく各回授業の前日までに、T2SCHOLAにパワーポイント資料をアップロードいたします。パワーポイント資料は、教室でもスクリーンに映しながら授業しますが、手元のPC等で作品画像を鑑賞しながら受講したい場合は、アップロードしたパワーポイント資料を活用ください。PC等を持参しなくても、もちろん受講に支障はありません。
教室では、作品分析の機会などでご意見、ご感想、ご質問等を積極的に発言してみてください。大教室での講義になると思いますが、自発的にご発言いただける場合は、マイクをお渡しします。意見、感想、疑問点等を共有しあうのは、芸術鑑賞の醍醐味です。気になったことは、何でも気軽にご発言ください(もちろん無理に発言を求めることはありません)。
授業期間中に3回程度、小課題を提出していただきます。講義内容に関連したごく簡単な質問ですので、T2SCHOLA上で簡単に回答いただければ十分です。小課題提出の際にご質問、ご感想等をお寄せいただくのも歓迎です。可能な限りフィードバックいたします。

授業計画・課題

授業計画 課題
第1回 ルネサンス美術史総説:「ルネサンス」概念の成立、古代復興、近現代美術との違い 「ルネサンス」とは、もともと「再生」を意味するフランス語でした。そうした一般的な単語が、中世末期から近世初期にかけての文化史的一時代を表す用語となったのには、どのような経緯があったのでしょうか。講義では、ルネサンス期における古代復興の実例や先行研究の議論を紹介しますので、参考図書や講義資料などを振り返りながら、授業外学修を進めてください。
第2回 15世紀のイタリア・ルネサンス美術1:ブルネッレスキ、マザッチョ、ドナテッロ 15世紀前半の初期イタリア・ルネサンス文化は、まずフィレンツェで花開きました。第2回は、建築家ブルネッレスキ、画家マザッチョ、彫刻家ドナテッロといった、フィレンツェの初期ルネサンス美術に革新をもたらした芸術家たちについて学びます。講義では、彼らの足跡や主要作品とともに、古代美術受容や幾何学的遠近法の確立といったテーマを紹介しますので、関心を持った内容について、参考図書や講義資料などを振り返りながら、授業外学修を進めてください。
第3回 15世紀のイタリア・ルネサンス美術2:ボッティチェッリと新プラトン主義 第3回は、第2回の初期フィレンツェ・ルネサンス美術の展開を受けて、15世紀後半のフィレンツェで活躍した画家ボッティチェッリの諸作品について考察を深めます。《春》、《ウェヌスの誕生》といった誰もが知る有名作品以外にも、彼は様々な神話画や寓意画を制作しており、その一つ一つの意味を読み解きながら、背景となる新プラトン主義思想について解説していきます。関心を持った内容について、参考図書や講義資料などを振り返りながら、授業外学修を進めてください。
第4回 15世紀の初期フランドル・ルネサンス絵画:ヤン・ファン・エイク、ロヒール・ファン・デル・ウェイデン フィレンツェでブルネッレスキたちが古代建築や幾何学的遠近法の理論を実践していたのと同じころ、ネーデルラント(現ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)でも、それ以前とは異なる写実的な美術を生み出そうと創作に励む芸術家たちが現れました。新たに開発された油彩技法を駆使しながら、彼らがどのように微細な写実表現を追求していったのか講義いたします。関心を持った内容について、参考図書や講義資料などを振り返りながら、授業外学修を進めてください。
第5回 15世紀末~16世紀初頭のドイツ・ルネサンス美術:デューラー、グリューネヴァルト イタリア・ルネサンスの人文主義的伝統に乏しかった15~16世紀のドイツでは、芸術家はいまだ中世の職人的地位にとどまり、社会で自立的立場を築いていたとは言い難い状況にありました。イタリアを2度訪れたデューラーの生涯を振り返ると、アルプス山脈の南北における芸術家を取り巻く社会環境の差異が浮き彫りになります。講義では、そうしたアルプス南北の文化比較・交流論に加え、木版画と銅版画の技法的違いなども紹介いたします。関心を持った内容について、参考図書や講義資料などを振り返りながら、授業外学修を進めてください。
第6回 イタリアの盛期ルネサンス:レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロの3名は、一般にルネサンスの三大巨匠と言われますが、その作風も生涯の足跡も三者三様です。それぞれの芸術家たちの作品や、その作品制作の背景となったパトロンとの関係などを、時間の許す限り詳しく解説していきます。3名に共通するのは、それ以前の時代に比べ、社会における芸術家の自立的地位が確立されてきているということです。芸術家とパトロン、芸術と社会の関係性の変化について、第5回までの講義内容と比較対照してみてください。そして関心を持った内容について、参考図書や講義資料などを振り返りながら、授業外学修を進めてください。
第7回 16世紀の後期ルネサンス美術:マニエリスム、ヴェネツィア派絵画 ラファエッロが病没した1520年ごろを境に、フィレンツェやローマのルネサンス美術は一般に「マニエリスム」の時代を迎えたとされます。日本語の「マンネリ」の語源にもなっている形骸化した文化の時代とされますが、19世紀以前に主流であった、そのような否定的な評価が妥当といえるのか、作品を見ながら皆様自身の見解を持つようにしてください。フィレンツェやローマの中部イタリアに遅れて、ルネサンス美術が最盛期を迎えたのが北イタリアの海洋都市ヴェネツィアです。素描(スケッチ)を重んじるフィレンツェ派に対し、彩色に優れるとされたのがヴェネツィア派の絵画で、ティツィアーノをはじめとする画家たちが築き上げた、絢爛豪華なヴェネツィア絵画の魅力を堪能し、フィレンツェ絵画との違いに注目してください。そして関心を持った内容について、参考図書や講義資料などを振り返りながら、授業外学修を進めてください。

準備学修(事前学修・復習)等についての指示

学修効果を上げるため,教科書や配布資料等の該当箇所を参照し,「毎授業」授業内容に関する予習と復習(課題含む)をそれぞれ概ね100分を目安に行うこと。

教科書

特に指定しません。

参考書、講義資料等

15~16世紀の西洋ルネサンス美術史概説書としては、例えば以下のものがあります。
エルンスト・H・ゴンブリッチ『美術の物語』河出書房新社、2019年(ポケット版、2024年)
小佐野重利・京谷啓徳・水野千依『西洋美術の歴史4ルネサンスⅠ:百花繚乱のイタリア、新たな精神と新たな表現』中央公論新社、2016年
秋山聰・小佐野重利・北澤洋子・小池寿子・小林典子『西洋美術の歴史5ルネサンスⅡ:北方の覚醒、自意識と自然表現』中央公論新社、2017年
秋山聰・田中正之監修『西洋美術史』美術出版社、2021年
高階秀爾・三浦篤編『西洋美術史ハンドブック』新書館、1997年
三浦篤『まなざしのレッスン1:西洋伝統絵画』東京大学出版会、2001年

そのほか、有名作品の評論および解説として、以下の新書が手軽に読めます。
ケネス・クラーク『絵画の見かた』高階秀爾訳、白水社、2003年
高階秀爾『カラー版名画を見る眼Ⅰ』岩波書店、2023年

各回内容に関する参考文献は、授業中にご案内します。また、講義資料は、上記の通りT2SCHOLAへアップロードいたします。

成績評価の方法及び基準

- 期末レポート 70%
15~16世紀のルネサンス美術作品を1点取り上げ、4,000字程度で論述してください。ルネサンス美術の特徴など、抽象的ないし大きすぎるテーマ設定は避けていただきたいですが、作品分析を通して、当時の宗教観や社会情勢などにまで考察が及ぶような、広がりある内容のレポートを高評価とします。作品制作の背景となった歴史的事実と、皆様自身が作品を見て感じた意見とが、ともにはっきり示され、有機的に結びついているのが理想です。T2SCHOLAにWordもしくはPDFファイルをアップロードしてご提出ください。期日は授業中にお伝えします。

- 小課題 30%
上述の通り、授業期間中に3回程度ごく簡単な小課題を設け、皆さんが継続的に授業に参加し、内容を理解していただいているか確認する予定です。小課題は、提出状況を評価対象とします。T2SCHOLAのブラウザ上で、簡単にご回答いただければ十分です。

関連する科目

  • LAH.A502 : 世界を知る:東アジア
  • LAH.A503 : 世界を知る:中南米
  • LAH.A504 : 世界を知る:中東・アフリカ
  • LAH.A505 : 世界を知る:南・東南アジア
  • LAH.A506 : 世界を知る:北米・オセアニア
  • LAH.H102 : 芸術A
  • LAH.H202 : 芸術B
  • LAH.H302 : 芸術C

履修の条件・注意事項

予備知識は特に必要としませんが、近世ヨーロッパの歴史について不安のある方は、簡単に復習しておくと理解しやすいかもしれません。
教室での講義も大事ですが、美術館へ足を運んで、実際に作品を鑑賞するのも勉強になります。適宜、皆さん自身でも美術展に行くようにしてください。
美術史にあまり馴染みがないという方の履修も歓迎しております。

連絡先 (メール、電話番号) ※”[at]”を”@”(半角)に変換してください。

メールアドレス:yuma.kubo[at]gmail.com、kubo.y.aj[at]m.titech.ac.jp

オフィスアワー

ご質問、ご相談等ございましたら、上記メールアドレスまでいつでもご連絡ください。また、水曜日の授業後は予定が空いていることが多いですので、授業の感想等でも、気軽にお声かけいただければ幸いです。

その他

この科目は、修士課程500番台の文系教養科目です。
東京科学大学理工学系では、学士から博士後期課程まで継続的に教養科目を履修する「くさび型教育」を実践しています。番台順に履修することが推奨されており、修士課程入学直後の学期(4月入学者であれば1・2Q、9月または10月入学者であれば3・4Q)に履修申告できる文系教養科目は400番台のみです。500番台文系教養科目は、入学半年してから(4月入学者であれば入学した年の3・4Qから、9月または10月入学者であれば入学した翌年の1・2Qから)履修可能となります。