2024年度 学院等開講科目 物質理工学院 応用化学系 応用化学コース
高分子物理化学特論
- 開講元
- 応用化学コース
- 担当教員
- 石毛 亮平
- 授業形態
- 講義 (対面型)
- メディア利用科目
- -
- 曜日・時限
(講義室) - 火3-4 (M-356(H132))
- クラス
- -
- 科目コード
- CAP.P434
- 単位数
- 100
- 開講時期
- 2024年度
- 開講クォーター
- 3Q
- シラバス更新日
- 2025年3月14日
- 使用言語
- 英語
シラバス
授業の目的(ねらい)、概要
本講義では代表的なソフトマターである「⾼分⼦」が織りなす多彩な秩序構造がエントロピーを駆動力として形成されることを概説し、多様な高分子の固体における複雑な階層構造を一般的な熱力学に基づいて理解する普遍的な考え方を習得する。
まず高分子の溶液系における挙動を理解するために不可欠な高分子一本鎖の性質が、高分子固体の性質と直接結びつくことを学ぶ。これにより、希薄溶液中の高分子の慣性半径を決定する因子(持続長,排除体積効果)について理解を深め、実際の高分子試料の分子量・多分散度の計測に役立つ知識も提供する。
さらに高分子ブレンドの相分離過程で出現する散逸構造、半結晶性高分子の結晶化などを題材として、それらの秩序構造の形成機序が一般的な熱力学原理によって普遍的に理解できることを学ぶ。
鎖状高分子が集合・秩序化した高分子試料は成形加工時に配向を生じやすく、その結果として必然的に物性の異方性が生じることを学び、固体物理の原理に基づいて各種の物性値が分子の配向関数と密接に相関することを理解する。実例として、高分子試料の複屈折が2次の配向係数に比例することを導出し、同様に他の電気的,熱的,力学的な物性も配向係数の関数になること、ひいては高分子試料の物性制御には分子鎖の配向制御が重要であることを理解する。
到達目標
本講義は自身の研究で⾼分⼦科学、特にその秩序化機序の知識を必要とする学生を対象としており、 高分子に見られる特徴的な秩序構造とその形成機構の熱力学的原理を理解することを到達目標とする。
具体的には次の能⼒を修得する。
1.エントロピーの分類について説明ができる
2.高分子一本鎖の各種モデルの特徴について説明できる
3.排除体積効果と分⼦鎖の広がりの関係を理解し,分子量計測の原理を説明できる
4.Flory-Hugginsの格子モデルから得られる混合エントロピーの本質を理解する
5.棒状分子の液晶がエントロピーの均衡によって発現することを理解する
6.ブロック共重合体のミクロ相分離構造形成について,熱力学に基づいて説明できる
7.半結晶性高分子の階層構造とその形成機構を熱力学に基づいて説明できる
8.各種の物性値がテンソル量であることを理解し,高分子材料の異方性について説明ができる
9.秩序化(配向)した高分子の光学的性質の原理について説明できる
キーワード
エントロピー(並進,振動,回転,コンホメーション),溶液物性(回転半径,固有粘度,排除体積,θ状態)Flory-Hugginsの格子モデル,χパラメータ,ブロック共重合体,液晶,階層構造(結晶格子,ラメラ,球晶),融点,ガラス転移
学生が身につける力
- 専門力
- 教養力
- コミュニケーション力
- 展開力 (探究力又は設定力)
- 展開力 (実践力又は解決力)
授業の進め方
配布する資料に従って授業を進める。各回とも、定められた講義範囲について⼗分予習していることを前提に重要項⽬についての解説を中⼼として講義する。各講義の終了後に理解度の確認のための課題を行う。
授業計画・課題
授業計画 | 課題 | |
---|---|---|
第1回 | エントロピーと高分子 | エントロピーに関わる運動(並進,回転,振動)にもとづいてソフトマターの特徴を説明できる. |
第2回 | 高分子の一本鎖の性質 ~各種の分子鎖モデルと排除体積効果~ | 屈曲性高分子(巨大分子)に特有のコンホメーションの多様性を説明できる.サイズ排除クロマトグラフィ(分子量分析)の原理を説明できる. |
第3回 | 高分子の混合物 ~Flory-Hugginsの格子モデル~ | 格子モデル(Flory-Huggins理論)から導かれる混合エントロピーの本質が並進エントロピーであることを説明できる. |
第4回 | 高分子の固体構造 ~ブロック共重合体,非晶,結晶~ | ブロック共重合体に見られるミクロ相分離構造が界面自由エネルギーとコンホメーションエントロピーの均衡により生じることを説明できる. |
第5回 | 高分子混合系の相分離の動力学,高分子の結晶化現象 | 高分子混合系の相分離挙動(核化・核成長,スピノーダル分解),半結晶性高分子の結晶化,融解挙動の熱力学について説明できる. |
第6回 | 高分子の物性の異方性 | あらゆる物性値(分極率,磁化率,誘電率,熱拡散率,熱膨張率,弾性率など)がテンソル量であることが説明できる.またそれらと配向関数の相関を説明できる. |
第7回 | 高分子の光学的性質 | 巨視的に配向した高分子の光学的性質(複屈折など)について説明ができる. |
準備学修(事前学修・復習)等についての指示
学修効果を上げるため、教科書や配布資料等の該当箇所を参照し、「毎授業」授業内容に関する 予習と復習(課題含む)をそれぞれ概ね100分を目安に行うこと。
教科書
講義資料を配布します。
参考書、講義資料等
ストローブル「高分子の物理」(Springer)
X線・光・中性子散乱の原理と応用(講談社)
成績評価の方法及び基準
高分子の秩序化に関する熱力学的原理を理解しているかを、各回の小課題(40点)+期末レポート(60点)にて評価する。
関連する科目
- CAP.Y204 : 高分子物性1(溶液物性)
- CAP.Y205 : 高分子物性2(固体構造)
- CAP.Y304 : 高分子応用物性
- CAP.P202 : 高分子統計力学
履修の条件・注意事項
履修条件は特に設けないが、物理化学(特に熱力学)および高分子科学関連の講義を履修し、内容を十分に理解していることが望ましい。